FROM LAB

次世代に解を挑戦のプロット

PROJECT REPORTS 001

共創で再エネ拡大の課題に具体策を。(1/5)

世界初の分散型ID活用VPPシステムの構築を開始

NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長 中西 祐一, 最高技術責任者 東 義一, 事業部長 原田 忠克, シニアマネージャー 疋嶋 秀敏/ CollaboGate Japan株式会社 代表取締役社長 三井 正義 / 株式会社Sassor 代表取締役社長 石橋 秀一 , 取締役 矢嶋耕平

関連情報:【プレスリリース|2023.08.09】NR-Power Lab、CollaboGate JapanおよびSassorと連携し、世界初の分散型ID活用VPPシステムの構築を開始~AIでエネルギーリソース制御を最適化し、収益最大化も実現~

1 2 3 4 5

NR-Power Labの起ち上げからこれまでの進捗と、今回、共創パートナーが参画することになった経緯を教えてください。

NR-Power Lab 代表取締役社長 中西:当社は日本ガイシとリコーのジョイントベンチャーとして「VPPサービス」と「電力デジタルサービス」の事業化を目指して、2023年2月に設立されたスタートアップ企業です。事業化に向けて、共創パートナーとの基礎技術の構築後、実機実証・商業実証を実施し早期の事業化を目指しています。

 持続可能な社会の実現に向け、どうすればビジネスを通し再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及における課題解決に資することができるか、私たちは具体策の一つとしてVPPの事業化に取り組んでいます。後発である私たちは、他にないユニークなVPPシステムを構築することが早期事業化の一つの条件になります。他にないユニークなVPPシステムとは何か、課題解決に資する「新しい価値」をどう作るか、その軸と私たちが信じるのは、当社の理念である「挑戦する。垣根なく英知を結集し、次世代に解を。」つまりオープンイノベーションの活用です。従来までの自前主義にこだわるのではなく、日本ガイシ・リコーの強みに、共創パートナーの強みを掛け合わせ「新しい価値」を生み出す考えです。

 課題解決に資する「新しい価値」とは何か。国内のVPPシステムの実証実験は、すでに行政主導で様々なプロジェクトが進んでいるため、後発の私たちは、自分たちの強みの棚卸と並行し、共創パートナーの探索に向け、国内外の先行している様々なSaaS (Software as a Service)、それを手掛ける企業の研究から始めました。

 研究を通しての一つの気づきは、経済性と安全性の両立の難しさです。VPPが再エネ導入に資するためにはビジネスとして成立する必要があります。VPPの費用・収益の両面において、オペレーションの省人化とエネルギーリソース制御の最適化は必須です。また、VPPシステムが接続・管理するエネルギーリソースには高い信頼性が求められます。しかし、強固なセキュリティを構築しようとすればするほどコストもかかります。これではVPPは増えず、結果として再エネ導入にも影響が出ます。そこで私たちは、多種多様なエネルギーリソースを効率的に組み合わせ、リーズナブルに信頼性の高い調整力を提供する、つまり相反する経済性と安全性を両立させることを「新しい価値」と捉えたVPPシステムの構築に挑戦し、再エネ普及の課題解決を目指すことにしました。

 「新しい価値」を実現するという観点から様々なSaaSを比較し、私たち独自のユニークなVPPシステムの構築に必要な技術の掛け算やカスタマイズの可能性を検証しました。その結果、VPPシステム構築の共創パートナーとしてお声がけした一社が、分散型ID等を活用したIoTデータインフラソリューションを提供するCollaboGate Japanです。同社は、セキュリティとトラストを担保するシステムを構築しており、世界でも非常にユニークで先駆的なベンチャー企業です。もう一社は、エネルギー分野でIoTとAI技術を使った事業を展開し、蓄電池制御最適化AI「ENES」を提供しているベンチャー企業のSassorです。同社は既に国主導のVPP実証にも参画しており経験も豊富です。今回のVPPシステムの開発にあたり、お互いの強みをかけわせることで、相反する経済性と安全性という課題に挑戦するよいチームができたと思っています。

一般論としてVPPシステムが必要となる背景について、現在の電力業界の変化からお話いただけますか?

NR-Power Lab 疋嶋シニアマネ―ジャー(以下、疋嶋):まず、これまで大手電力会社は、将来の電力需要を予測して大規模な火力発電所や、原子力発電所、電力を届けるためのインフラに投資してきました。しかし、電力自由化によって多くの新電力会社が設立され電力を販売するようになると、これまで固定されていた買い手が減り、今後投資に見合うだけのリターンが見込めない状況になってきます。買い手が減るということで言えば、この国の人口減少も今後大きく影響する可能性があります。

 そして、国が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現には、再エネ拡大が必須です。国として再エネ由来の電気を優先して利用する仕組みのため、今後、火力発電所などの稼働率はさらに下がっていきます。

 加えて、国際情勢などさまざまな要因から化石燃料の価格は高騰を続けています。今後は日本の人口減少が続き、国際的な産業競争力も下降傾向の中で、その資源の購買力を将来に渡って維持し続けられるのか。このようなことから、2050年カーボンニュートラルの目標達成とあわせて、資源国ではない日本が再エネの主力電源化に向かって努力することは、電力の安全保障という面からも重要であると考えています。

再エネ拡大への課題はどういったところにありますか?

疋嶋):大規模な再エネ発電所は、広大な用地を必要とするため、地方に建設することが多くなります。しかし大需要地である都市部へ電力を届けるためには、新しいインフラを整備する必要があり、発電所の建設と合わせて膨大な時間とコストがかかります。

 例えば、人間の血管は末端に行くほど細く、毛細血管になっていきますよね。これと電力インフラというのは似ていて、大規模な洋上風力を建設できるところは大都市から離れた地方部が中心になりますが、これは末端の毛細血管に新しい心臓がつくようなもので、そこには太い血管をつくるというインフラ整備が必要となります。大規模な洋上風力は再エネ拡大に非常に重要な役割りを担いますので、電力インフラへの新規投資は不可避です。

 同時に、電力需要地の近郊に既存の電力インフラに過度の負担をかけない量の再エネを分散させ建設することもスピード・費用の両面から見て効率的だと考えます。再エネを分散させて設置することで、電力の地産地消による送電ロス削減や、多くの地域で非常時のバックアップ電源として活用することができます。このタイプの再エネは、単に増やせばいいというだけでなく、現状の電力供給の仕組みを活用し、それにうまく融合していくという、地道ですが再エネ拡大への現実的なアプローチが重要だと考えています。

 電力は消費量と発電量が同時同量である必要があります。このバランスが崩れると機器の停止や大規模停電となるリスクが高まります。これまでは、発電側が電力の消費量に合わせて調整してきました。この調整はこれまで主に火力発電が担っていました。しかし、電力業界の変化から火力発電所の維持や増設には様々な課題があります。このような中で、天候などで発電量が一定ではない再エネが増えていきます。

 そこで、火力発電が担ってきた調整機能としてVPPの仕組みがキーになります。近年普及する分散型電源や蓄電池だけでなく、みんなが持っているエネルギーリソースを出し合って、消費量と発電量を整えるという仕組です。しかし、各地の分散型電源を構成するエネルギーリソースは、規模も種類もさまざまです。大規模な再エネ発電所もありますが、小規模な太陽光発電や風力発電が点在しているところが大半です。火力発電と同等の調整機能を発揮するには、多数の小さな蓄電池などもいくつも束ねながら制御する必要があります。これらの大小多様なエネルギーリソースを制御することは難易度が高いですが、そこにチャレンジしていきたいですね。

[次ページ]既存VPPシステムの課題と、その課題をクリアする発想
1 2 3 4 5
FROM LAB