FROM LAB

次世代に解を挑戦のプロット

PROJECT REPORTS 005

2024.06.13

柔軟性の高いビジネスモデルで、
蓄電所の可能性を最大化する。(2/4)

シェアリング機能付きハイブリッド蓄電所の開発を開始

大和エナジー・インフラ株式会社 代表取締役社長 松田 守正 / NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長 中西 祐一

1 2 3 4

StorageHubの特徴と顧客への提供価値

StorageHubには、「シェアリング」「ハイブリッド」という言葉があります。従来の蓄電所と比べてユニークな点を教えてください。

NR-Power Lab 中西:私たちは、NR-Power Labの事業開始直後から巨大な蓄電池ともいわれる蓄電所を、分散型電源社会を支えるエネルギーリソースのポートフォリオの中で、どのように位置づけ、日本ガイシ・リコーの強みを生かして、競合他社とどう差別化を図るかという観点から、先行する海外市場の研究を進めてきました。

 日本ガイシとリコーという双方「モノ作り」が得意な会社のDNAを受け継ぐNR-Power Labが、基幹インフラとなる蓄電所を作るにあたり、工夫や確たるポリシーもなく時流に追従したくなかった。普通の蓄電所では、Why NGK? Why Ricoh? に答えられない。NR-Power Labとして、ユニークバリューが希薄な蓄電所を作っても、らしくないと感じていました。

 その中で、私たちは、ドイツの大手電力会社EWE社から発足したエネルギーマネジメントシステム・VPPビジネスのベンチャー企業であるbe.storaged社が計画を進めていた「StorageHub」に着目しました。StorageHubのコンセプトにある「蓄電池の移設性」という発想が面白く、be.storaged社にアドバイスをもらいながら、日本版StorageHubとして独自の構想を描いてきました。EWE社は、以前私がドイツ駐在時に、一緒にプロジェクトを行ったパートナーでもあります。

 私たちがStorageHubを通して目指すビジネスモデルのユニークな点は3つ。1つ目は、蓄電所内の電池を需要家でも使えるようにするシェアリング機能を持たせること。具体的には、蓄電所の蓄電池を需要家に物理的に移設できるように設計します。2つ目は、大容量のNAS®電池と、小容量で高出力のリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッドにすること。3つ目は、ユーザーが初期投資なく使えるようにするアセットフリー型のサービスであること。

 これにより、発電所から小売事業者、大小需要家まで、幅広いシーンのさまざまなニーズに対し速やかに応えることが可能になります。システム自体の弾力性が高く、市場環境の変化にも非常に強くなる。長所が異なる蓄電池を組み合わせ、設計段階から幅広く用途を考慮することで、結果としてビジネスモデル全体として柔軟性が高くなります。

 短期的な投資回収は難しいですが、システムの弾力性と柔軟性で投資回収の予見性を高められないか、そして長期にわたってしっかりと基幹インフラの一部として責任が全うできる蓄電所を目指しています。

具体的には、どのような実証を行っていきますか?

NR-Power Lab 中西:実証は大きく2つのテーマに分かれます。1つは技術的な検証です。岩手県内の太陽光発電所にNAS®電池とリチウムイオン電池を設置し、最適運転するハイブリッドシステムの運用ロジックを構築すること。もう1つは商業化に向けた、StorageHubのビジネスモデルの構築です。

 具体的には、NAS®電池とリチウムイオン電池を同時に制御し、蓄電所全体の最適な運用方法に関するデータを収集し、運用効率の向上やリスクの最小化につなげます。実際の運用環境で効果的に機能することを確かめると同時に、需要家のニーズに対応した柔軟なサービスを提供することが可能であることを実証結果で証明します。

事業化すれば、どのような顧客に価値を提供できるとお考えですか?

NR-Power Lab 中西:蓄電所として再エネの安定電源化へ寄与するのはもちろん、全国で電力小売事業を展開するリコージャパンや、地域新電力会社、再エネの発電事業者に対して、電力価格の調達費削減や再エネの出力抑制の回避・自家消費率の向上といったバリューの提供が可能になります。

 例えば、多くの自治体では地域新電力会社を通して脱炭素の取り組みを進めています。StorageHubを地域新電力会社に初期投資不要型の蓄電サービスとして提供することで、蓄電池導入のハードルを下げ、域内エネルギーの地産地消率の向上を支援するとともに、地域のエネルギーレジリエンスの向上にも寄与できると考えています。域内に分散設置するStorageHubに非常用電源機能やEV充電機能を付与すれば、それはもう単なる蓄電所ではなくなります。

これから事業化を支援する大和エナジー・インフラにどのようなことを期待していますか?

NR-Power Lab 中西:まず第一に、大和エナジー・インフラは長年にわたり、エネルギーインフラに関する幅広い経験と専門知識を持つ投資会社で、再エネや送配電事業、蓄電池関連のプロジェクトにもすでに複数参画しています。これまで構築された豊富なネットワークとのシナジーで、当社の成長を支援してもらえることを期待しています。また、金融機関としての大和エナジー・インフラから専門的なアドバイスを受けることで、より効果的なビジネス戦略や資金調達の手段を見つけ出したいです。

 大和エナジー・インフラとの共創は、NR-Power Labにとって市場拡大や国内外での事業展開の可能性を広げる機会となります。大和エナジー・インフラのネットワークやリソースを活用することで、より多くの顧客に私たちのサービスを提供し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みをさらに加速させることができると期待しています。

[次ページ]投資会社がStorageHubのコンセプトに見る可能性とは?
1 2 3 4
FROM LAB