FROM LAB

次世代に解を挑戦のプロット

PROJECT REPORTS 006

2024.08.30

子どもたちが身近に感じられる
地域のエネルギーポテンシャル。(3/4)

山形県長井市の全小中学校で、再エネの見える化システムの実証を開始。

長井市総合政策課 再生可能エネルギー推進室 主査 斯波 優美子, 係長 渡邉 脩太 / おきたま新電力株式会社 専務取締役 江口忠博 / NR-Power Lab株式会社 シニアエンジニア 兼 事業企画担当 尾前 秀樹, 開発チームリーダー 上山 凌

1 2 3 4

身近なことに感じてもらうための伝え方の工夫。

今回の実証は、まず再エネの地産地消について知ってもらうきっかけとするためのプロジェクトですが、再エネの普及啓発について日頃感じている課題はどのようなことですか?

長井市 渡邉:市民、事業者、行政、地域が一体となって「自分ごと」にすることがとても大切で、これは喫緊の課題です。長井市で言えば、国の直轄ダムである長井ダムの水力発電をはじめ、地域には再生可能エネルギーの発電量が豊富にありますが、十分に地産地消されておらず、市外で使われている量も多いのが現状です。代わりに消費者が市外から電力を買っているとなると、地域内経済循環の観点では、エネルギー代金が域外に流出してしまっています。

人口減少の抑制、持続可能な地域を実現させるためには、再エネの地産地消は必須で、この結果が地域脱炭素に繋がりますし、地域内経済循環も進みます。しかし、これらをそのまま声高に訴えても、なかなか届かない可能性も高いため、「自分ごと」は「身近なこと」とすると、再エネはお財布にも優しいことなど伝え方を工夫する必要があります。

また長井市では、冬期に石油ストーブを多く使用していて、家庭で燃料タンクを持っていることも多いですが、そのタンクから油漏れが発生し、身近な川を汚しているなどの課題があります。石油ストーブを燃料転換し、電化や木質バイオマス燃焼機器を導入することで、地域の環境を守れるなど、自分から近いところで考え、行動変容を促す必要があります。これらを多面的かつスピード感を持って推進していくことが、再エネ普及に必要なものと考えています。

おきたま新電力 江口:長井市では、市の食育推進計画にある数値目標が、概ね目標に到達するなど、食物の地産地消については市民に理解が定着しつつあります。一方、電気についてはまだまだ意識が醸成されていないため、再エネの地産地消についても、食の地産地消の取り組みのような意識レベルまで着実に進んでいくことを期待しています。

今回の実証では、子どもたちにまず自分の住んでいる地域は、再エネに恵まれているということを知ってもらいます。次に、実はその再エネの多くが地域で消費されず、他の地域で使用されているという事実を知っていただくことも大切です。

NR-Power Lab 尾前:日常生活で普段から使っている電気がどの発電所から来ているのか、発電源を意識している人は少ないのではないでしょうか。今回のような再エネの見える化システムを導入することで、電力の発電源を可視化し、多くの人々に「電気がどこから来ているのか」を実感してもらうことができます。それを皮切りに、地域での再エネの自給能力や地産地消率など、効果的にアピールできると考えています。

さらに、見える化システムを通じて、地域の地産電力の購入や、再エネ100%プランへの切り替えの可能性を地域の市民や企業の皆さんに知ってもらい、地域新電力への切り替えなど、再エネの地産地消に対する意識を高めることができればと思います。状況を数値で正しく伝えて、地域住民や企業の皆さんに行動変容を起こしてもらうことが、見える化システムの狙いのひとつです。

[次ページ]地域の行動変容のきかっけとなる取り組みを
1 2 3 4
FROM LAB